「TEAM OF TEAMS」を読んだ

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

  • 作者: スタンリー・マクリスタル,タントゥム・コリンズ,デビッド・シルバーマン,クリス・ファッセル,吉川南,尼丁千津子,高取芳彦
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: 単行本
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元米陸軍の大将でアフガニスタンにおける米軍と多国籍軍の司令官を努めたスタンリー・マクリスタル氏が現地で遭遇したリアルで生々しい戦況をもとに、複雑で変化が早く予測が不可能な 21 世紀に求められる組織像とリーダーシップ像について、3 名の共著者と共にまとめた書籍です。

プロダクトマネージャーに訊く Ep.4:Kaizen Platform 瀧野さん をたまたま見つけて、そこで言及されていて気になったので読んでみました。

本書の狙いは、読者が今日の世界が過去とどう違うかを理解し、それに対して何をすべきかを理解してもらうことだ。

と、冒頭で書いているように、お手本とされていた旧来型のマネジメントがどのような歴史を辿りながら発展してきて、どのような時代の変化によって機能しなくなってきたか、そして、今の時代に適応できる組織やリーダーシップが何かを、アルカイダ (AQI) の戦いというリアルなストーリーやその他の豊富な事例と共に解説していて、腹落ちする内容が多かったです。

複雑で予測不可能な今日の世界

過去の世界は事前の予測と計画によって効率性を求めることがよしとされ、組織構造やマネジメントもその考えをベースとしたものになっています。例えば、単一の工場で製品を生産することを考えると、工程を 1 つ 1 つ丁寧に分解していき、それぞれの工程について最も効率のよいやり方を考え、実行することで効率性を最大化することができます。

一方で、今日の世界はより相互依存的でスピーディーで予測不可能になっています。これはテクノロジーが発達して、様々な状況が複雑に相互依存することが多くなり、ほんの些細な何かが最終的な結果に大きな要因を与えるようになったことが原因です。

複雑系においては、何かについて原因があるにしても、その原因があまりに多く、しかもそれが互いにさまざまな形で直接的・間接的に関連しているため、理論上はともかく、事実上、結果を予測するのは不可能といえる。

このような複雑系においては、ビッグデータでさえも救いの神にならないと本書は主張しています。なぜなら、データは「平均的な」結果をかなり正確に明らかにしてくれる一方で、最終的な結果は偶発的な小さい偏差に影響されるので、正確な予測はできないからです。

人ではなく組織を管理する

過去の世界においては、ある目的を達成するために組織や工程を MECE に分解して、トップダウンのマネジメントで予測と計画をしながら成果をあげていくことが可能でしたが、複雑で予測不可能な世界ではこうしたマネジメントは機能しづらいところか、逆に悲惨な結果を招くこともあるといいます。

英雄的なリーダーの神話

特に全てを把握して、どんな時にも正しい判断をタイムリーにこなせるような「英雄的なリーダー」については存在し得ないと警鐘をならしているのが印象的でした。

1979 年 6 月に NASA が主催したワークショップの参加者はみな、開会挨拶の冒頭での「皆さん、機体はもはや問題ではありません」というフレーズを今でも覚えている。

1978 年頃の航空業界において、機体の安全性が高まったにも関わらず航空機搭乗者の志望者数が 10 年にわたって増加し続けていたそうです。この原因を調べた NASA は、航空乗務員の予期せぬ事態に対応する能力が低下している原因は、機長だけでは対処できないほど機体が精巧で複雑になりすぎたにも関わらず、機長がすべてを管理して対策を立てようとする点だと結論づけたそうです。

これは、スタートアップの経営者やプロダクトマネージャーにも似たような問題を抱える可能性があり、会社やプロダクトの規模が大きくなって一人で全てを管理して対策を立てるのが難しくなる状況になっても、「英雄的なリーダー」像にしがみついて、結果として成長が止まってしまうといったことは起こりがちで示唆に富む内容だと思いました。

透明性の高い情報共有と適切な権限委譲

では、どうすればいいのか?の部分に関して、本書では当たり前といえば当たり前な結論ですが、透明性の高い情報共有適切な権限委譲 が重要だと主張しています。

透明性の高い情報共有

NASA の成功は、組織に関する深い見識を示している。なかでも最も重要なのは、相互依存性と未知のもので形づくられる領域では、状況理解が鍵だという点である。

NASA が、アポロ計画という共通目標を達成するために、情報共有の仕組みを改善してミッションを達成した一方で、ELDO (欧州ロケット開発機構) は、国毎の縦割りで自国内に情報を閉じ込めたことでロケットの接続部に不具合が生じて打ち上げに失敗し続けたというのはよい話でした。

「人とのつき合いや会話が、どんな貴重なものを生み出すかは予想もつかない」

さらにその情報理解に関しても、どういう情報や人が結びつくことで貴重なものが生み出されるかは分からないので、多少は効率が落ちたとしても、全員が意思疎通をしながら進められるような環境を意図的に運用する方がよいとのことです。

適切な権限委譲

私はリーダーの役割の本質について、あらためて考えるようになった。私の承認を待ったからといってより良い結果が出るわけではない。優先すべきは、 時機を逸する前に最善の選択をすることである。

AQI との戦いは情報共有の仕組みを改善することで戦況が良くなっていきますが、ある時に、著者が最終的な意思決定をやらなければならないことが、実行のスピードを妨げていることに気づいたと言います。これを、透明性の高い情報共有の仕組みを作り、意思決定する際の思考の筋道を伝えた上で、自分たちで判断するように命じた結果、明日までかけても 70% しか解決できなかった問題を、今日やることで 90% 解決できるようになったそうです。

特任部隊で我々は、新しいマネジメント手法に加え、自立型のリーダーシップという新しい考え方が必要だと気づいた。上に立つ者の役割は、糸を引いて人形を操ることではなくなり、共感によって文化を創造することになったのである。

上に書いたような英雄的なリーダー像を目指していると、チェス名人がチェスを指すように 1 人 1 人の動きを細かくコントロールするような欲求が生まれますが、新しいマネジメントにおいては、菜園主のように継続的な手入れをしながら自ら育つ環境を作ることしかできないので、そのような生態系をつくって、維持することが求められます。

このようなリーダーシップを 「見守りつつも手は出さない」 という表現で表していましたが、一人一人の人を管理して従わせるのではなく、情報共有と権限委譲できるような組織であり続けることを管理することが大事であると言えそうです。

我々が暮らす世界の質はマネジメントによって決まる

我々にとって最大の問題を解決するために組織(軍、学校、政府、企業)が不可欠なのであれば、そして組織が力を発揮できるか否かがその運営に左右されるのであれば、我々が暮らす世界の質はマネジメントによって決まることになる。マネジメントはこれまで、産業の力を引き出し、人類を月に送り、怪我や病気に苦しむ人の命を救い、戦争の勝敗を決めてきた。そして今、気候変動による複雑で連鎖的な脅威や、開発援助の流れの不安定さ、ネットワーク型のテロといった問題を解決できる仕組みが必要とされている。こうした状況では、人類が進歩を追求するうえでマネジメントが根本的な阻害要因になる。テキサス大の自動運転システムのようにリアルタイムに調整し、適応できるような、時代遅れのメンタルモデルに縛られないマネジメントの仕組みが求められてる。

ここ半年くらいは、マネジメントについて学んだり考えたりする機会が増えていて、それ以外のことをする時間が相対的に減っていたりするわけですが、やはり大きな成果をあげるには色々な能力を持った人が組織として力を発揮できるかにかかっているわけで、その質を高めるための努力は今後も継続してやっていきたいなと改めて思ったのでした。